歯科衛生士の現場から
診療所での仕事
診寮所の歯科衛生士は予防のスペシャリスト
小林 明子さん 小林歯科医院 東京都歯科衛生士会
町の歯医者さんというイメージはどういうものでしょうか。今でも多くの人は痛い時に行くかかりつけの歯医者さんというイメージ? “痛いのは嫌だけど、先生が優しいから通っている” とか、 “気になったときに歯石を取ってもらったり、歯のクリーニングをしてもらう”という認識が多いのではないでしょうか。
私たちはそのイメージを払拭したいと思っています
歯科診療所の役割は、まず、う蝕や歯周病、または咬合回復を目指した治療が第一になります。もちろん、それが歯科医療の基盤に間違いありませんが、しかし、医療の目的は人々の健康の回復・維持増進としたとき、歯科診療所こそが人々の健康に真正面から向き合うことができると信じてきました。痛いとき、気になったときにだけ行くのではなく、患者さんには何も問題のないときから予防を受けてもらい、治療中は回復に全力で努めいただき、健康を取り戻した後、歯科診療所が継続的に維持安定を目指してケアを提供することと考えています。そして、このような予防中心の歯科診療所を目指してきました。そのため、治療前、治療後も歯科衛生士の業務範囲となるわけです。
当院開設者である院長は舌がんの研究を行いながら歯科大学口腔外科に勤務していましたが、『病気になってからでは、どんなに素晴らしい治療を行っても完全に元に戻すことはできない、健康に寄与する医療を提供したい、特別な人を対象とするのではなく子供から高齢者までを、1口腔単位からその人全体、そして家族ぐるみで包括的に支える医療を行っていきたい』との理念を掲げて、平成2年に一般歯科診療所としてオープンしました。
予防や歯周基本治療をベースに診療所体制を考えていましたので、開業当初から歯科衛生士が患者さんを担当していくスタイルを目指してきました。初めはユニット2台が、現在では5台となり、そのうちの2台は歯科衛生士専用です。そして、長期継続的に来院する患者さんは3人の歯科衛生士がそれぞれ専任に担当し、年間延3000人を受け持つようになりました。
歯科衛生士の3大業務は歯科予防処置・歯科診療補助・歯科保健指導です。しかし、歯科診寮所の歯科衛生士の仕事は本当に多岐にわたります。
歯科診療補助としては修復補綴治療や矯正、口腔外科、インプラントの術前、術中、術後の補助や管理をそれぞれが担当を受け持っていきます。ホワイトニング、カウンセリングなど歯科衛生士単独の業務も多くなり、また近年オーラルスキャナーの普及で当院も歯科衛生士がパソコンと向き合いながらスキャニングに取り組みます。
もちろんそれらの治療の最中でも口腔衛生指導(OHI:Oral Hygiene Instruction)やスケーリング・ルートプレーニングなどは診療補助でありながら治療の一部として捉える業務でもあるわけです。しかしながら歯科衛生士しかできない最大の仕事は歯科予防処置です。予防歯科といえばフッ化物塗布やシーラント、またPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning 「プロによる機械的歯面清掃」)やメインテナンスを連想されます。しかし、私たちは個々の歯を対象にみていくのではなく、大きな視点から疾患発症の予防、進行抑制、重症化予防とライフステージに対応して、それぞれの考え方と技術で患者さんと向き合っていきたいと考えています。
具体的に当院では、まず3歳の時から予防歯科として受け持ちますが、実は妊娠前からの予防教育が大切です。家族、保育者と一緒に子供の成長を考えていくように指導します。就学前後では第一大臼歯を守り、健全な歯列咬合と口腔機能の育成にシフトしていきます。青少年期は歯肉炎発症予防、成人期には歯周炎発症や進行抑制、そして高齢期は重症化予防やオーラルフレイル予防に取り組んでいきます。いつからスタートしたとしてもそれが予防の始まりです。5歳から予防をスタートし、年に2〜4回の定期ケアを10年、20年と継続された方々は、むし歯のないママとパパになります。次は自分の子供と一緒に来院です。60代から予防に取り組んだ方でも8020を達成し表彰されました。しかしながら、その長いつながりの中では必ず変化があります。口腔内の状況はもちろん、生活または健康状態など小さな変化にも気づき、対応していくことも歯科衛生士のサポーティブセラピーです。
常に資料、情報を整理し、再評価を繰り返していきますが、最大の評価は患者さんから受けられるということです。
「ずっと通っていてよかった。痛いところや腫れることも無いし、美味しくなんでも食べられるのが嬉しい。」と自分が提供したケアを患者さんから嬉しい評価を直接聞くことができることが診療所の歯科衛生士の大きな喜びです。もちろん、結婚出産や介護などのライフイベントで途中休職せざるを得ないこともありますが、復帰して、また担当の患者さんとお会いできたときは、お互いに再会を喜びあっているものです。これも一人の人を長期に担当している診療所の歯科衛生士だからこそ味わえる醍醐味です。そして、街の歯医者さんだからこそ、これが実現できるのかもしれません。
予防のスペシャリストの歯科衛生士が勤務する歯科診療所は、痛いときにだけ行く治療中心の場ではなく、健康を提供できるケアの場所として、患者さんが意識を変えていきます。そして、私たち自身も役割の大きさや価値を実感させられ、自信と満足を得ることができる仕事と言えます。
前列右端が筆者の小林明子さん
歯科衛生士は一本の歯から全身の健康を生涯にわたり貢献できるという素晴らしい仕事です。多くの患者さんが診療所でMy歯科衛生士に出会えることを待っています。次はあなたの出番です!