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歯とお口の健康情報

2011年6月1日

口腔がんを正しく理解して早期発見につとめましょう

~がん医療の現場で歯科衛生士が活躍しています~

日本では年間約6000人がかかり、約3000人もの方が死亡しているとされている「口腔がん」。国を挙げてがん対策に取り組んでいるアメリカをはじめとする先進諸国では、早期発見、早期治療を徹底することで、罹患率は変わらず高いものの死亡率は減少傾向にあると言われています。ところが日本はその逆で、罹患率も死亡率も年々増加する一方なのです。

口は、咀嚼(噛む)、嚥下(飲み込む)、声を出すなど人間が生きて行く上で重要な働きをする大切な器官。歯を含め、口の健康は豊かな生活を送る上で欠かすことができません。その大切な器官である口を「口腔がん」から守るためには、病気を正しく理解することが第一歩。まずは「口腔がん」について説明しましょう。

口の中全体を口腔と言い、ここにできるがんを総称して「口腔がん」と呼んでいます。「口腔がん」はできる場所によって『舌がん(ぜつがん)』・『歯肉がん(しにくがん)』・『口腔底がん(こうくうていがん)』・『頬粘膜がん(きょうねんまくがん)』・『口蓋がん(こうがいがん)』・『口唇がん(こうしんがん)』に分類されます。部位別では『舌がん』が最も多く、次に多いのが『歯肉がん』となります。

発生頻度は、がん全体の1〜3%程度と決して多くありませんし、他のがんとは違い、患部を直接見ることができるので早期発見しやすいがんといえるでしょう。ところが、一般の方にあまり知られていないため、進行するまで放置されてしまうケースが多く、亡くなられる方が急増しているがんでもあるのです。

知っておきたい口腔がんの初期症状と危険な生活習慣

口腔がんの5年生存率は60~80%と言われています。初期症状のうちに発見すれば簡単な治療で治すことができ、後遺症もほとんど残ることはなく、5年生存率は90%以上との報告もあります。しかし進行した口腔がんでは、手術により舌やあごの骨を切除してしまったり顔が変形したりすることがあり、そのため食事や会話が困難になり、日常の生活に大きな支障を残すことになります。だからこそ、早期発見が重要になります。

痛みの少ない初期段階 痛みが出たら要注意

口腔がんの自覚症状で最も多いのが口腔内の痛み。その他、しこり、腫れ、ただれ、出血、歯のぐらつき、口臭などが挙げられます。しかし、初期の段階では痛みが少なく、痛みが出て来た時にはすでに進行しているケースが多く、舌や歯肉の盛り上がり、硬いしこり、なかなか治らない口内炎などの症状には注意が必要です。

主な原因~Risk factor~

喫煙

「口腔がん」が発生する最大のリスクファクターは、他のがん同様、喫煙です。喫煙者の口腔がん発生率は非喫煙者に比べ約7倍も高く、死亡率は約4倍も高いという報告があるほどなのです。

飲酒

喫煙に次ぐリスクファクターとなるのが飲酒。特に50歳以上の男性で、毎日たばこを吸い、なおかつお酒も飲まれる方は最も危険です。飲酒時の喫煙は、たばこに含まれている発がん性物質がアルコールによって溶けて口腔粘膜に作用するため、よりリスクが高くなると考えられています。

その他

喫煙、飲酒以外に、「お口の清掃不良」や「ムシ歯の放置」「合わない入れ歯や破れたかぶせ物のなどによる慢性的な刺激」「栄養不良」などもリスクファクターとして挙げられています。

日ごろから気をつけること

  1. 1.たばこ、お酒を控える
  2. 2.偏食をせずバランスの良い食生活を心がける
  3. 3.歯磨きやうがいを習慣化して口の中を清潔に保つ
  4. 4.合わない入れ歯、破れたかぶせ物、治療していないムシ歯があれば放置せず、歯科医師の治療を受ける

進行したムシ歯をそのままにしていたり、合わない入れ歯を無理して使っていて舌や頬を傷つけていたり、口の中が歯垢や歯石で汚れていたりすると口腔がんが発生しやすくなります。つまり口腔がんの予防で大切なことは、かかりつけの歯科医を持って、定期的な診療を受けることです。

ムシ歯の適切な治療、こまめな入れ歯の調整、ムシ歯や歯周病を予防するためのクリーニングなどを受けることでお口の中は清潔に保たれ、口腔がんのリスクを下げることにつながるのです。それと同時にがんを寄せつけない生活習慣(タバコを吸わない、お酒を控える、ストレスをためない、バランスのよい食生活、適度なスポーツなど)を心がけましょう。

今すぐできる口腔がんセルフチェック

他のがんとは違い「口腔がん」は、口の中にできるので自分でも簡単に見ることができます。従って、初期の段階で発見することも可能です。月に1回は鏡の前でセルフチェックをして早期発見を心がけましょう。

セルフチェックの方法

必要な物は大きめの手鏡と指に巻くガーゼやティッシュ。下の表に書かれている順番にチェックしていきましょう。

  1. 明るい場所で大きめの鏡を用意しましょう。
  2. 入れ歯は外しましょう。
  3. 上下の唇の内側や歯肉①の状態を観察しましょう。
  4. 頬を指で軽く引っ張って頬の内面②を観察しましょう。
  5. 裏側の歯肉③を観察しましょう。
  6. 口蓋(上あご)④は少し上を向き色の変化を観察。指で触れて、しこりや肥大の有無を確認しましょう。
  7. 舌の表面、左右の側面、上にあげて裏側⑤⑥と口腔底を観察。ガーゼやティッシュを巻いた指で舌を挟み、優しく引っ張るなどして異常がないか確認しましょう。

セルフチェック項目

口腔内の定期的なチェックと共に、日ごろから気を付けたいのが下記のような症状や状態です。

1つでも「ある」にチェックが入った人は、すぐに歯科医を受診しましょう。

①なかなか治らない「はれ」や「しこり」はないですか

ないある

口の中の肥大したところや触ってやや硬くなったりしているところは要注意です。

②粘膜が「赤く」なったり「白く」なったりしているところはないですか

ないある

粘膜が赤くなったり白くなったりしているのは「紅斑症」や「白斑症」かもしれません。どちらも前がん病変ですので要注意です。

③治りにくい口内炎はありませんか

ないある

2週間たっても治らないお口の中の荒れは要注意です。

④合わない入れ歯を無理して使っていて違和感がありませんか

ないある

がたついたり、噛むと痛みがある入れ歯を長く使っているとその刺激でがんが発生するかもしれないので要注意です。

⑤食べ物が飲み込みにくくなった…などはないですか

ないある

見た目には変化がなくても、舌や頬の動きが悪い、しびれや麻痺があるなどの症状があると要注意です。

口腔には、前がん病変という粘膜の病気がみられ、放置していくと「がん」に移行する確率が高い病変をいいます。

健康な口腔粘膜はピンク色をしていますが、写真のようなレース状の白色の紋様や紅色・黒色の変化、また、写真のように舌が部分的に白色に変色していたら要注意です。

がん治療の今

科学技術の進歩と共に、難病であるがんの治療法も日進月歩の進化を遂げています。医療機関や患者さんの症状によっても異なりますが、あらゆるがん治療を受けられる患者さんを歯科衛生士はサポートします。

すべての状態を考慮し計画的に治療を推進

がん治療は年々進歩しています。それは「口腔がん」も同じ。治療法も徐々に確立されつつあり、適切な治療法により、予後も改善されてきていますが、何よりも早期発見、早期治療が最も重要であることに変わりはありません。

「口腔がん」の疑いがある場合は、その部位の粘膜組織の一部を切り取って顕微鏡で調べます。診断の結果、がんと判明したならほかの臓器などへの転移がないか調べた上で治療が行われていくのです。

一般的には、①手術、②放射線療法、③化学療法の単独療法あるいは、いずれかを組合わせた併用療法が行われます。大きな手術では負担も大きく、術後に食事、会話の障害や顔の変形が生じるケースもあります。

また、放射線治療法・化学療法を行うと、口内炎、白血球・血小板減少などの副作用が生じます。そのため、組織型、部位、大きさ、悪性度などのがんの要因、年齢や全身状態などすべてを十分考慮した上で、計画的に治療が進められるのです。

がん治療の現場では

がん治療の現場でも歯科衛生士が患者さんをサポートしています。

「口腔がん」に限らず、がんの治療は手術・放射線療法・抗がん剤による化学療法の3本柱で成り立っています。しかし、残念ながらいずれの治療法を用いても患者さんは様々な不快症状と闘い、克服して治療と向き合わなければならない現実があるのです。

手術後にベッドの上で安静を余儀なくされれば、自分で歯を磨くことさえ支障をきたします。消化器の手術を受けた場合には、ある一定期間は口から食べ物や飲み物を摂る経口摂取が制限され、口腔内の自浄作用は低下します。呼吸器の手術であれば、取り付けられた気管内チューブが口腔内の細菌によって時間と共に汚染が進みます。

というように、口腔内環境の悪化は、術後感染や肺炎、手術創の治療不全などに密接に関わってくるのです。

また、抗がん剤の治療では、その部位を問わず約60%に、頭頸部の放射線治療では100%に口腔粘膜炎が発症します。口腔粘膜炎は重症になると、口腔から咽頭の粘膜全体が1つのアフタ(口内粘膜に灰白色斑が生じる口内炎)を形成したような状態となり、痛みを伴い会話もままなりません。歯ブラシが触れただけでも痛みを感じるため、十分な清掃が困難となる上に唾液の分泌量も減少するので口腔内の環境は極めて悪くなります。

さらには、粘膜炎によって経口摂取ができなくなることで低栄養状態をまねき、体力の著しい低下によって治療を中止せざるをえない事態も起こります。このような症状の発生を予防あるいは緩和するために、現在がん治療の現場では、高度な知識や技術を習得した歯科衛生士が患者さんのサポートを行っているのです。

専門的口腔ケアとは

歯科衛生士が行う専門的口腔清掃と摂食・嚥下リハビリテーションを合わせて「専門的口腔ケア」と呼んでいます。日常の看護の中で行う口腔ケアとは内容が異なるだけではなく、まずはがん治療のリスクに従って口腔ケアのプログラムを立て、必要なタイミングで治療に介入していくことになります。

その際は、患者さんにも専門的口腔ケアの必要性を十分に説明し、理解していくことが重要となります。なぜなら、患者さんの協力がその後の治療の成果に大きく関わってくるからです。

また、がん治療前から口腔の環境を整え、治療中、治療後も継続的な口腔ケアを行うことによって有益な効果を得られるのは明白な事実として知られているのです。ただし、治療が終わっても、口腔内の粘膜炎や唾液分泌量の低下が続くため、摂食・嚥下リハビリテーションはそこからが本番。がん治療とは異なる継続的なケアが必要不可欠となるのです。

このように歯科衛生士も口腔ケアを通じて、がんと闘う患者さんと共に過ごし、歩んでいるのです。

(写真提供 東京歯科大学市川総合病院)

最後に

歯科衛生士の活躍の場はさらに広がっています

現在、歯科衛生士はさまざまな現場で他の医療職の方々と力を合わせ、お互いが持っている専門的な職能を尊重しあいながら連携し、チーム医療の一員として活躍しています。

また、歯科衛生士は、口腔がん以外のがん治療にも起こりうる口腔内のトラブルを未然に防いだり、トラブルの緩和、さらには闘病中の患者さんの精神面のサポートにも積極的に取り組んでいます。

口腔内の病気への不安、何か心配な症状が見られたときには1人で悩まずに、お近くの歯科医院を受診し、歯科医師・歯科衛生士に相談してみましょう。

(病院歯科衛生士委員会)